はじめに
「膝のお皿の前が腫れている」「肘をつくと痛い」「肩が上がらない」 こうした症状で来院される患者様の中で、
実は非常に多いのが「滑液包炎(かつえきほうえん)」です。
今回は、経験則だけでなく、最新の医学論文やレビュー論文(※1, 2)で報告されている内容をもとに、滑液包炎の正体と対処法について解説します。
1. そもそも「滑液包(かつえきほう)」とは?
医学論文における定義では、滑液包は「摩擦を軽減するためのクッション」と説明されます。
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構造: 骨と筋肉、または皮膚と骨の間にある、少量の液体(滑液)を含んだ平らな袋。
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役割: 関節が動く際、組織同士が擦れて摩耗するのを防ぐ「潤滑油」のような役割を果たします。
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病態: ここに炎症が起き、袋の中に水が溜まったり(浸出液)、袋自体が分厚くなったり(肥厚)する状態が「滑液包炎」です。
2. なぜ起こるのか?(原因の分類)
医学的には、原因は大きく2つ(+特殊なもの)に分類されます(※3)。ここを見極めることが非常に重要です。
A. 非感染性(無菌性)滑液包炎
最も接骨院でよく見られるタイプです。論文では以下の要因が指摘されています。
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急性の外傷: 転倒して膝や肘を強打したことによる直接的なダメージ。
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慢性的な微細外傷(使いすぎ):
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反復動作による摩擦。
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職業病としての側面(例:配管工、庭師、カーペット敷設作業員など、膝立ち作業が多い職種における膝蓋前滑液包炎)。
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論文では「オーバーユース(使いすぎ)」が主要因の一つとされています。
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B. 感染性(化膿性)滑液包炎
バクテリア(黄色ブドウ球菌など)が侵入して起こるもの。
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特徴: 傷口からの感染や、免疫力が低下している場合に起こります。これは緊急の医療処置(抗生物質や切開排膿)が必要な状態です。
C. その他
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結晶誘発性(痛風や偽痛風に関連するもの)。
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関節リウマチなどの全身性疾患に伴うもの。
3. 体のどこに起きやすい?(好発部位)
疫学研究によると、以下の部位での発症頻度が高いとされています。
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肘(肘頭滑液包炎): 机に肘をつく動作や転倒などで発生。「学生肘(Student’s elbow)」とも呼ばれます。
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膝(膝蓋前滑液包炎): 膝立ち作業で多発。「家政婦膝(Housemaid’s knee)」という通称が論文にも記載されています。
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肩(肩峰下滑液包炎): 肩の使いすぎ、インピンジメント症候群に関連。
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股関節(大転子滑液包炎): ランニング障害や中高年の女性に多く見られます。
4. 論文に基づく「症状」のチェックリスト
以下の症状が見られる場合、滑液包炎の可能性が高いとされています。
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限局性の腫れ: 境界がはっきりした、ブヨブヨとした腫れ。
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可動域制限: 痛みのために動かしにくくなるが、関節そのものの拘縮(固まること)とは異なる。
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圧痛: 押すと痛い。
【要注意!すぐに病院へ行くべきサイン】 感染性滑液包炎を示唆する以下の症状がある場合、
論文では「即時の専門医への紹介」が推奨されています。
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患部が赤く熱を持っている。
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発熱(37.5度以上)がある。
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激しい痛みがある。
5. エビデンスに基づいた「治療と対策」
感染性でない(使いすぎや打撲による)場合、研究では**「保存療法(手術をしない治療)」が第一選択とされています(※4)。
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安静と回避: 原因となっている動作(膝立ちや肘をつく動作)を避けることが最も重要です。
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圧迫と保護: サポーターやパッドを使用し、物理的な刺激を遮断します。
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アイシング: 急性期(熱感がある時期)には冷却が推奨されます。
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理学療法・運動療法: ここが接骨院の出番です。周囲の筋肉の柔軟性を高め、関節のアライメント(位置関係)を整えることで、「滑液包への摩擦ストレスを減らす」ことが再発予防に有効であると示唆されています。
- 物理療法 超音波、ハイボルテージなどで炎症を抑えていきます
さいごに
滑液包炎は、単に「水を抜けば治る」というものではありません。論文等の研究データが示すように、「なぜそこに負担がかかったのか」という根本原因(姿勢、動作、筋力バランス)を解決しなければ、再発を繰り返す傾向があります。
「肘や膝の腫れが引かない」「動かすと痛い」とお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。感染性の疑いがあるかどうかの鑑別も含め、適切なアドバイスをさせていただきます。
参考文献(例示):
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(※1) Aaron DL, et al. Four common types of bursitis: diagnosis and management. J Am Acad Orthop Surg. 2011.
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(※2) Baumbach SF, et al. Prepatellar and olecranon bursitis: literature review and development of a treatment algorithm. Arch Orthop Trauma Surg. 2014.
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(※3) 診療ガイドラインおよび標準的な整形外科学テキストに基づく分類


