交通事故のケガというと「むちうち(首)」が有名ですが、実は事故後、「腰が痛くて座っていられない」「肩や手首がズキズキする」と訴える患者様が非常に多くいらっしゃいます。
「ぶつけたわけじゃないのに、なぜ?」
そこには、レントゲンには写らない、交通事故特有の「衝撃の伝わり方」と「脳の反応」が関係しています。今回は、首以外の痛みの原因について、医学論文や衝突実験のデータを元にわかりやすく解説します。
1. 腰の痛み:シートベルトを支点にした「てこの原理」(屈曲・伸展損傷)
追突されたり、急ブレーキを踏んだりした瞬間、私たちの体はシートベルトによって守られます。
しかし、その「守られ方」が腰に大きな負担をかけることが、衝突実験の研究(バイオメカニクス)でわかっています。
【何が起きているのか?】
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骨盤のロック: シートベルト(腰ベルト)が骨盤を強く固定します。
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上半身の振られ: 一方で、固定されていない「上半身(胸部)」は、衝撃で激しく前後に振られます。
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「てこ」の作用: 固定された骨盤を支点にして、腰骨(腰椎)が「てこの原理」のように無理やり曲げ伸ばしされます。
医学的には、これにより椎間板(ついかんばん)の内圧が急上昇し、関節や筋肉が引き伸ばされることで損傷が起きるとされています。
「ただ座っていただけ」に見えても、腰の奥深くでは、重い荷物を無理な体勢で持ち上げた時以上の負荷が一瞬でかかっているのです。
2. 肩・腕・膝の痛み:「衝撃の突き上げ」現象(Axial Loading)
「ハンドルを握っていた手首や肩が痛い」「ブレーキを踏んだ足の付け根が痛い」 これらは、危険を察知した時の「人間の防御反応」が裏目に出ることで起こります。
医学論文(Behrらの研究など)では、衝突前の「身構え(Bracing)」がケガのリスクを変えることが示唆されています。
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腕の痛み: 衝突の瞬間、無意識にハンドルを強く突っ張ります。すると、衝突のエネルギーが腕の骨を伝わって、手首→肘→肩へと一気に「衝撃の波」として突き抜けます。これを軸圧負荷(Axial Loading)と呼びます。
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足・膝の痛み: ブレーキを強く踏み込んだ状態で衝撃を受けると、その力が膝や股関節に直接伝わり、関節の軟骨や後方の組織を痛めます。
直接どこかにぶつけていなくても、「突っ張った棒(腕や足)」を通して衝撃が関節を直撃するため、捻挫や打撲のような痛みが後から出てくるのです。
3. なぜ痛みが長引くのか?:脳が興奮状態になる「中枢性感作」
「ケガ自体は治っているはずなのに、痛みが引かない」 これは交通事故の患者様で非常によく見られる現象です。これには「中枢性感作(Central Sensitization)」という医学的概念が深く関わっています。
国際疼痛学会(IASP)などの研究でも定義されている状態です。
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仕組み: 事故の強い衝撃や恐怖体験がきっかけとなり、脳や脊髄の神経が「興奮状態(過敏な状態)」になります。
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ボリュームの故障: わかりやすく言うと、痛みのセンサーの「ボリュームつまみ」がMAXで壊れてしまった状態です。
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結果: 普段なら痛くないはずの軽い刺激(少し動かす、触れるなど)でも、脳が「痛い!」と強く感じてしまいます。
これは「気のせい」ではなく、神経システムの生理学的な変化です。だからこそ、患部だけでなく、自律神経を整えたり、緊張を解いたりする全身的なケアが必要になります。
当院が「全身のチェック」を大切にする理由
以上の医学的根拠からわかるように、交通事故のダメージは「痛い場所」だけに留まりません。
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腰: シートベルトによる急激な引き伸ばし
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手足: 突っ張りによる衝撃の貫通
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神経: 脳の過敏化
当院では、これらを総合的に判断し、単なるマッサージではなく、医学的根拠に基づいたアプローチ(関節の可動域改善、神経の興奮を鎮める施術など)を行います。
「首は大丈夫だけど、腰や手足に違和感がある」という方も、決して放置せず、お早めにご相談ください。事故特有のダメージをしっかりリセットしましょう。


